ーー 要約 ーーーーーーーーーーーーーーー
・胸腔内を陰圧にして、肺に空気を吸い込んでいる
・OSASは空気の代わりに大量の血液が心臓へ戻ってくる
・夜中のトイレ、下がらない血圧、原因のはっきりしない不整脈の原因はOSAS?
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夜中に2、3回トイレに起きる。年をとったからだと思って、水分を控えてみたけれど変わらない。そんな方は少なくないはずです。実は、その原因が喉(気道)にあることがあります。おしっこの話なのに原因が膀胱でも腎臓でもなく、犯人は舌とか喉(気道)だなんて・・・。今回はその不思議なつながりを解き明かします。
前回のおさらいです。オーサス(OSAS)が体に及ぼす影響は、低酸素状態になることと、空気の入口が閉じたまま吸おうとして胸腔が陰圧になることの2つでした。今回は2つめのお話です。
◯ そもそも肺はどうやって空気を吸っているのか?
“胸腔が陰圧になる”とは何なのか。これは言い換えると肺はどうやって空気を取り込んでいるのか、という話になります。ちょっとマニアックですね。“うえ〜”と思った方もご安心ください。ちょ〜簡単にご説明します。それでも無理という方は、そうです。必殺・聞き流し(読み流し)戦法でひとまず目を通しておいてください。数日後、数年後、数十年後に“あっ……!”という瞬間が来るかもしれません。
皆さんイメージしてください。肺を風船だと思ってください。肺は風船なので、自分から膨らむことはできません(ただし風船なので、縮むことは少しできます)。ドラマやニュースに出てくる集中治療室の人工呼吸管理では、あの気管チューブを通して機械が空気を送り込んでいます。だから肺が膨らみ、呼吸ができる。押し込んで膨らませる方式です。
では気管チューブをくわえていない私たちはどのようにして肺に空気を取り込んでいるのか?答えは胸腔内を陰圧にして、肺に空気を吸い込んでいるのです。胸を膨らませて胸腔内の圧を下げると、大気圧との差によって空気が肺へ流れ込んできます。押し込むのではなく、引き込んでいるわけです。“えっ”と思った方は、そうです、必殺・聞き流し(読み流し)です。細かいことまで覚えるはありません。
つまり人工呼吸器と私たちの呼吸は、同じ「肺を膨らませる」でも力の向きが逆なのです。機械は外から押す、人間は内から引く。この「引く」という点が、今回の話の鍵になります。

◯ 空気が入ってこないと、代わりに血液が入ってくる
さて、ここからが本題です。オーサス(OSAS)の方は空気の入口である上気道(咽頭上部)が舌の後退で塞がっています。胸を膨らませて胸腔内を陰圧にしても、肝心の空気が入ってきません。しかし陰圧という”引っぱる力”は発生したままですので、強く吸おうとするほどその力は大きくなります。強い胸腔内の陰圧に伴い、空気の代わりに別のものが胸腔へ引き込まれます。それが血液です。静脈系から心臓へ通常よりも多くの血液が流れ込んできます。
例えばタピオカをストロー飲んでいる光景を想像してください。タピオカがストローの先端に吸い付いて、甘いミルクティーはストローを通じて上がってこないのに、口の中はぐいぐい引っぱられる。あの感覚が毎晩あなたの胸の中で起きています。しかも体は“空気が入ってこない”と気づくと、意思に関係なく自動的にさらに強く吸おうとします。塞がっているのに、力任せに引っぱる。頑張れば頑張るほど陰圧は強くなり、引き込まれる血液も増えていきます。真面目さが裏目に出る典型例ですね。まあ、眠っているのですからご自身の意思は全く関与していません。
◯ 引き伸ばされた心臓が“水が多すぎる”と勘違いする
大量の血液が流れ込むと心臓、特に心房が引き伸ばされます。ここであなたの体は、こう判断します。“心房がパンパンだ。体の中の水分が多すぎるに違いない”、そして利尿ホルモンの分泌を増やします。余分な水を尿として捨てるためです。しかし実際には体内の水分が多いわけではありません。無呼吸のため胸腔内陰圧により、血液が偏って集まっているだけです。センサーは正しく反応しているのに、読み取った状況が事実と違うのです。それでも体は真面目に水を捨てにかかります。
その結果、夜間に尿の生産が増える。これが夜間頻尿の正体だと言われています。寝る前の水分を控えても、トイレの回数が減らないのは当然です。原因は飲んだ量ではなく、喉(気道)の詰まりだからです。根本を直さないかぎり、いくら水分制限をしても(極限状態まで脱水にすれば別ですが・・・)意味がありません。しかも困ったことに夜中にトイレで起きれば、その回数だけ睡眠は分断されます。無呼吸で脳波上覚醒反応が出現して起こされ、トイレでまた起こされる。二重であなたの安眠は削られているわけです。
◯ 心房が伸びれば不整脈も高血圧も・・
引き伸ばされた心房には、もう一つの問題があります。不整脈が発生しやすい状態になるということです。前回は“低酸素で心臓が400mダッシュを強いられ、疲れて心臓はミスをする”という話をしました。今回はそこに物理的に心房が引き伸ばされるという負荷が重なります。低酸素と胸腔内陰圧により二方向から心臓は攻められているわけです。
さらにオーサス(OSAS)は高血圧の原因の一つとされています。夜のあいだに繰り返される低酸素と胸腔内陰圧が、血圧の調節にも影響を与えています。血圧の薬(降圧薬)を飲んでいるのに血圧の数値が下がりきらない、そんな方の背景に夜の無呼吸が隠れている可能性が多く認められます。
◯ 明日、明後日に急激に病気が進行するわけではないけど・・・
正直なところもお伝えします。オーサス(OSAS)が長期間続くと体には悪いことばかり起きます。これは残念ながら事実です。一方で“オーサス(OSAS)だから明日、危険な状態になる”という急性期のエビデンスは、まだないようです。しかしながら、明日のことは誰にもわかりません。交通事故だっていつ起きるかわからない、飛行機が何時墜落するかもわからないのですから・・・。大切なのは明日ではなく10年後のあなたの健康状態です。毎晩の低酸素と胸腔内陰圧が、10年・20年と積み重なった時に何が生じるかが重要です。じわじわ効いてくるタイプの負荷なので、危機感が持ちにくいのが厄介なところです。オーサス(OSAS)の体への影響はまだ不明な点が多く、今後の研究が待たれます。ただ、“はっきり解明されていないから放っておいてよい”ということにはなりません。わかっている範囲だけでも、不整脈と高血圧と利尿作用など、睡眠に不利なのは周知の事実です。

◯ まとめ
・胸腔内を陰圧にして、肺に空気を吸い込んでいる
・OSASは空気の代わりに大量の血液が心臓へ戻ってくる
・夜中のトイレ、下がらない血圧、原因のはっきりしない不整脈の原因はOSAS?
胸腔内が陰圧になるのは、私たちが空気を引き込みながら呼吸しているからです。オーサス(OSAS)ではその入口が塞がっているため、空気の代わりに血液が心臓へ流れ込みます。引き伸ばされた心房は利尿ホルモンを増やし、夜間頻尿を招きます。同時に不整脈も起こりやすくなり、高血圧の一因にもなります。
夜中のトイレ、下がらない血圧、原因のはっきりしない不整脈。バラバラに見えるこの三つが、一本の線でつながることがあります。線の出発点は、あなたの喉(気道)です。心当たりがあるなら、それぞれの科をまわって別々に治療するより先に、まずは睡眠専門クリニックという選択肢を思い出してください。病気の元凶が1つなら、手をつける場所(治療する箇所)も一つで済むかもしれません。次回は、では実際にどんな治療があるのかをご紹介します。


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