ーー 要約 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
・鼾(いびき)は重力による舌の落ち込みが原因(地球人の宿命)
・鼾(いびき)の音の大きさではなく、呼吸が止まっている時間が大切
・スマートフォンでひと晩の鼾(いびき)の音を録音してみる
・寝る前のお酒を減らしてみる
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お父さんの鼾(いびき)で眠れなかった夜、自分の鼾(いびき)でハッと目が覚めた朝、どちらも経験がある方は多いはずです。赤ちゃんの寝息は“かわいい”、大人の鼾(いびき)は“うるさい”、この差はいったいなんなのでしょう。音量?長さ?それとも聞いている人の気分?その人の見た目?今回は、“鼾(いびき)”という音が体のどこで何故鳴っているのかを解き明かしていきます。結論から言うと真犯人はかなり意外な相手です。
◯ 寝息と鼾(いびき)に「医学的な国境」はない
寝息と鼾(いびき)を分ける医学的な定義を私は知りません。ご存じの方がいたら是非教えてください。静かな可愛い音なら寝息、ガーゴーという騒音は鼾(いびき)のような気もします。鼾(いびき)は全部が全部、病気というわけではなく健康そのものの人だって鼾(いびき)をかきます。寝息も同様、問題になるのはいびきの音そのものではなく、その質と長さです。
つまり、“鼾(いびき)をかいた=異常”ではなく、“どんな鼾(いびき)を、どれだけ長くかいているか?”が本当の正常と異常の分かれ目なのです。境界線は音量ではなく、鼾(いびき)の中身にありました。実際、同じ人でも日によって鼾(いびき)の音色や長さ、質が異なります。疲れている日、飲んだ日、風邪気味の日、同じ喉なのに音に変化があるのは喉の形そのものが原因ではなく、その日ごとの喉周辺のコンディションにもあるということです。ここが今日いちばん大事なポイントです。
◯ 鼾(いびき)は「体でできた楽器」の音
そもそも、なぜ音が出るのでしょう。ここは楽器を思い浮かべると一気に理解が深まります。笛は、空気の通り道が細くなっているから音が鳴ります。チェロやティンパニーは、弦や膜が震えるから音が鳴ります。狭くなる、震える、音の発生条件はだいたいこの二つです。
鼾(いびき)も寝息もまったく同じ原理です。空気の通り道が狭くなり、その周りが震える。すると、あの鼾(いびき)音が生まれます。あなたの喉は夜な夜な演奏されている管楽器なのです。しかも演奏者は自分ではなく聞かされるのは家族、なかなか理不尽なコンサートです。裏を返せば、通り道が十分に広ければ音は鳴りません。静かな寝息の人は喉が丈夫なのではなく、単に管が広く開いているだけ、というわけです。
では、その通り道はどこで何が狭くしているのでしょうか?

◯ 空気の通り道を、いったん整理してみる
空気は鼻(鼻腔)や口から体に入ります。むせたときに飲んだ牛乳が鼻から出た、という笑い話があるように、口と鼻は喉の奥でつながっています。胃カメラを鼻からでも口からでも入れられるのは、まさにこの構造のおかげです。鼻腔や口腔の奥は咽頭となり、空気は声帯を通って気管へ、そして肺へ進みます。一方、食べ物は咽頭から食道を通って胃へ向かいます。同じ入り口から入って、途中で分岐する二車線道路のようなものですね。
ちなみに高齢になると、この分岐がしっかり分けることができず(人間は飲み込みの反射で2車線に分離させています)、一緒になってしまうことが多いのです。食べ物が空気側の車線に迷い込み、むせたり、誤嚥性肺炎につながったりするのはそのためです。
さて本題ですが、鼾(いびき)の音が生まれる中心地は咽頭の口側の部分です。仰向けで眠ると、舌の付け根(舌根)が重力に引かれてここへ落ち込みます。通り道が狭くなり、さらに舌や口蓋垂(のどちんこ)が震えて、いびきが増幅されます。そうです、悪の根源は重力です。覚醒している時は起き上がっていることもあり、筋肉が舌を支えているので何も起きません。眠って力が抜けた瞬間、舌はストンと後ろへ落ち込んでしまいます。いびきが寝ているときにしか出ないのは、そういう仕組みだからです。もし宇宙で火星での無重力生活が当たり前になれば、いびきはこの世から消えるかもしれません。地球に住んでいる限り、私たちは重力とお付き合いするしかありません。

◯ 重力に加担する、四人の共犯者
重力だけでは、鼾(いびき)の強さの個人差は説明できません。通り道をさらに狭くする要因が四つあります。
① 肥満:首まわりは外側にも内側にも脂肪がつきます。外から見て太って見えなくても、内側は着々と狭くなっています。また舌(特に根元)にも脂が付いてしまいます。上タンが焼肉の大好物ですから文句は言えませんが、通り道が細くなれば舌根沈下による狭窄音が家の中に響きわたります。体重が増えた時期といびきを指摘され始めた時期が重なっているなら、まず疑うべきはここです。
② アルコール:お酒には粘膜をむくませる作用があります。鼻腔も口腔も咽頭もむくみ、通り道が細くなります。飲んで帰ってきたパートナーが突然すごい鼾(いびき)をかき始めて驚いた、というのはこれが理由です。ふだんは静かな寝息の人が、飲んだ日だけ轟音になる。あれは体質が変わったのではなく、その晩だけ喉の管が細くなっているのです。
③ 年齢:舌を支える筋肉が衰えると、仰向けの時に重力により舌を正しい位置に保持できなくなります。重力に負けた舌根が落ち込み、喉の管に狭窄が生じます。若い頃は静かだったのに年々うるさくなった、という変化にはこの筋力の衰えが関わっています。ジムでダンベルを挙げるように舌の姿勢保持筋を鍛えられればよいのですが、今のところ確実に有効なトレーニング方法は見つかっていません。関連デバイスも多く売られていますが、なかなか商売となっている分野ですので購入は慎重にお願いします。
④ 口が開くこと:口が開くと下顎が落ち連動して舌根が後ろへ下がります。口を閉じるテープやバンド、マウスピースで下顎の位置を少しでも保つことができれば、舌の後退をある程度防げます。ただし効果が期待できるのは軽症例に限られます。
◯ 注目は「音」ではなく“止まっている時間”
ここまで鼾(いびき)の音の話をしてきましたが、本当に見るべき指標は別にあります。無呼吸の長さと頻度、そして血液中の酸素飽和度がどこまで変化しているかです。鼾(いびき)の音は、あくまで通り道が狭いというサインです。その狭さが極まって空気が通らなくなれば、睡眠時無呼吸症候群へと近づいていきます。うるさい鼾(いびき)より、静かになった数十秒のほうがずっと不気味なのです。
「ガーッ……(無音)……ガハッ」というパターンに心当たりがあるなら、その静寂こそチェックポイントです。音が止まっているあいだ、体は空気を取り込めていません。その分だけ血中の酸素が減り、体は苦しくなって目覚めかけます。本人にその自覚がないまま、夜間何度も繰り返されることもあります。だから、どれだけ寝ても朝眠い、日中の会議で猛烈に眠くなる、といったサインは軽く見ないでください。睡眠時間は足りているのに日中眠いのなら、足りていないのは時間ではなく睡眠の質の方かもしれません。そして、いちばん最初に気づけるのは本人ではなく、隣で寝ている人です。「うるさい」で終わらせず、「どのくらい止まっているか」まで観察してもらえると、話が一段深くなります。
◯ まとめ
鼾(いびき)は誰にでも起こる、重力と体の構造がつくる自然の交響楽団です。恥ずかしがる必要はありません。
・鼾(いびき)は重力による舌の落ち込みが原因(地球人の宿命)
・鼾(いびき)の音の大きさではなく、呼吸が止まっている時間が大切
・スマートフォンでひと晩の鼾(いびき)の音を録音してみる
・寝る前のお酒を減らしてみる
録音を聞いて無音の時間が繰り返し出てくるようなら、そこから先は自力で判断しないでください。睡眠専門クリニックへ相談するのが近道です。一晩の眠りの質は、翌日のすべてを左右します。あなたの喉の演奏会、そろそろ一度点検してみませんか?


コメント
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